iPhone SDKに挑戦中

先日、Appleより遂にiPhone 3Gが発表された。

iPhoneが登場した時から何故GSM?と言われ続けただけに、このiPhone 3Gの登場を首を長くして待っていた人も多いと思う。

私は去年の7月頃、初代iPhoneが発売されてから2週間程度してから購入した。会社の同僚が発売日に並んで買ったiPhoneを見せびらかされているうちに、まんまと罠にハマって買ってしまったのだ。

私が買った時は$599だったものが2ヶ月程で$399まで値下がりして衝撃を受けたと言うのに、今度のiPhone 3Gの値段は8GBモデルで$199と言うではないかい。アーリーアダプタの宿命とは言え、この値下がり具合には軽い目眩が起きる。

ただ、逆に言えば$599でも買いたくなるような商品を$199と売るという事だから、購入者が一気に増えるのは容易に想像できる。

私はアメリカに暮らして早8年。日本の携帯事情には疎くなってしまったので、「日本の携帯電話と比べて」iPhoneがどれだけ良いのかは説明出来ないが、iPhone自体はどれだけ良いかは十分知っている。

iPhoneが手放せなくなったのは事実だ。元々iPodを使っていたので、iPod代わりという意味でも手放せない。メールやIMは元々あまり使わないけれども、GoogleMapやSafariによりWebチェックは頻繁に使っている。

iPhoneでWebサーフィンってのは無理があるが、出先でどうしてもWebで調べものがしたい時には抜群の働きをしてくれる。Note PCなんて持ち歩く意味がない。

しかし、日本のiPhoneに対する反応を観ていると、未だにこのiPhoneの本当の凄さを理解してないんだなと思う事がある。

某社が新型スマートフォンを発表して、iPhoneなど恐るに足らないなど息巻いてるのを観ていると、やはり日本は未だに物作りの幻影に惑わされていのだなと思う。

一般ユーザーにはiPhoneはクールな携帯電話にしか見えないかもしれないが、それはまさに氷山の一角でしかない。

iPhoneの真の価値はその裏側を支えるテクノロジーとストラテジーにあると言って良い。

確かに「モノとしての端末」であれば、iPhoneを凌ぐ製品は他社でも作れると思う。もっと広大な画面を乗せたり、もっと高性能なカメラを内蔵したり、いくらでもやりようはあると思う。実際、中国では大量のiPhoneモドキ製造されている。

しかし、そんな「モノ」には意味は無いのだ。

今日、この手のハイテクガジェットを作るコストは年々低下していき、「モノ」を作る事は全く商売に成らない時代になってきている。

昔、日本の工業製品が世界中を席巻した時代は「モノ」の時代であった。「良いモノ」こそが価値を持ち、人々はそれに対して対価を支払った。だから、「良いモノ」作りに日本企業は邁進した。世界中、どこの国でも日本製品を越える品質の「モノ」が作れない時代はそれで良かった。

しかし、今は違う。日本が誇った精密実装技術も、電子部品の殆どがSystem on chipとなってしまった現代では中国でも台湾でも似たようなモノがさしたる苦労も無く出来てしまう。

何故一世を風靡したウォークマンiPodに負けたのか?その理由の一つは昔はウォークマンに使われた精密機械は日本でしか出来なかったが、iPodに使われているような半導体部品で構成されては日本以外、どこの国でも作れるのだ。

Mac Book Airが発売され、それを日本の技術者が分解した記事が日経エレクトロニクスに載った事があった。その時の日本のエンジニアの反応はおしなべて

「大した技術は使っていない。日本の技術で作ればもっと薄く作れた。」

というものであった。逆に言えば、日本の技術など使わなくても、一世を風靡するような製品が作れる時代になっている訳だ。

そう、もうコンピュータエレクトロニクスが商品価値を持つ時代は終わっているのだ。

翻ってiPhoneだが、こちらも最初こそ$599なんて強気な値段だったが、今度のiPhone 3Gにおいては$199である。iPhoneというハードウェアを売るだけが儲かるビジネスではない。

Appleの儲けはiPhoneを売る事から得るのではない。iPhoneを売るのはその始まりに過ぎない。

一般ユーザーがiPhoneを使うことによって、Appleは携帯電話会社から通話料の数%をインセンティブとして得ているとの話がある。

また、iPhoneにはiTunes Music Storeにアクセス出来るので、ユーザーがiPhone経由で購入した音楽の収益も入って来る。

そして、今回のiPhone 3Gより一般ユーザーが販売したアプリケーションの売り上げの30%をAppleは受け取る事が出来る。

iPhoneとは、Appleにとってはサービスの入り口に過ぎないのだ。先ほど氷山の一角と言ったが、その裏に潜む可能性は某社が発売した新型スマートフォンとは訳が違う訳だ。

iPhoneとは携帯電話の格好をした、次世代プラットフォームなのだ。

このプラットフォーム上ではユーザーのアプリケーションが動き、新しいサービスがどんどん展開されている。今のPCとほぼ同じ働きをこれからiPhoneは担っていると思う。

いくら素晴らしい端末を開発しても、そんな懐の深さを日本企業が実現するのは難しい。

そんな訳で、今はiPhoneSDKに興味もって先日からドキュメントなどを読んでいるのだが、その充実ぶりには本当に圧倒される。

詳細な解説書に何十本もの解説ビデオ。iPhone SDKを順序立てて学ぶ為のビギナー向けの資料もある。AppleiPhoneの一般向け開発環境を整えるのに丸々1年を費やした事を思い知らされる。

これだけでも、Appleが単なるハードウェアとしてiPhoneを売る事が主眼でない事がわかる。クールなハードウェアを出して、それに飛びつくユーザーからの上がりで収益を上げるつもりならば、1年もの時間をかけて一般ユーザー向けの開発環境をここまで充実させる意味はない。

この先、多くの開発者がiPhoneをプラットフォームとして活用してくれる事を考えての戦略の現れだ。それだけ、AppleiPhoneを手厚く育ていく意思があるという事だ。

iPhoneのプログラミングを学ぶ事が、一過性のブームではなく、今後数年〜5年は続く貴重なスキルになると私は思っている。それで、今からiPhone SDKの勉強を始める気になったのだ。

可能な限りがんばってみたいと思う。