夢の機械

もしも、ドラえもんからどんな道具が欲しいか?と聞かれたら、私は「寝ている時の夢を録画する装置」が欲しいと答える。そんな道具がドラえもん本編に出て来るのかは知らないけど。

どうも自分はリアルな夢を観る事が多い。いや、それが普通と言っても良い。リアルというのは現実的という意味ではなく、鮮明なビジュアルを伴っているという意味で。

不思議なのは、これが現実に知っている場所の景色がリアルに再現されているというのならばまだ理解出来るのだが、全く観た事も無い景色が細部に至るまで再現されていたりするから余計に気になる。

また、その全く観た事が無い景色自体が、非現実的な景色だったりするから始末に負えない。地下数千メールへ続くトンネルへ下りて行く夢や、現実に存在しないテーマパークやら、地上数百メートルにもおよぶタワーの夢などを観た覚えがあるが、細部に至るまでそのディティールを覚えている。

また、ある一時期、私は自分の夢をコントロールする事が出来た。今思えばそれは夢を観ていたのか、単なる妄想だったのか判らないけれども、自分が観たい夢を観ていた。一週間連続で連続ドラマ形式の夢を見た事もあった。

これで私に絵心があればイラストにでも出来るのだけれども、そんな才能は微塵も無い。だから、私は「夢の録画装置」が子供の頃から欲しくて仕方が無いのだ。そんな装置が出来れば、自分による、自分の為の、自分だけの映画が作れるんじゃないかと本気で思ったものだ。

そんな訳で、私は「夢」という現象について非常に強い興味を持っている。

現代科学でも、まだ「夢」についてはまだあまり判っていないらしい。記憶の整理や忘却に関係あるらしいという程度は判っているらしいけれども、何故人は夢を見るのか?そして、その機能的なメカニズムや意味についてはまだ推測の域を出ていない。

私は学生時代にロボット、特に人工生命や人工知能寄りのロボットについて強い興味を抱いていたので、何故人は夢を見るのかについて色々と妄想していた。

全く根拠のない私の妄想では、「夢」はある種のシミュレーションなのではないかと思っている。

今、コンピューター上で実現されている人工知能というのは、人間の思考パターンを論理化して、論理演算によって人間の知性を再現しようとしている。私はこれには常々疑問があった。

例えば、目の前に箱があったとする。この箱をどうやって開けるのか?それを古典的な人工知能的なアプローチで解こうとすると、空間を認識して、箱をモデル化し、そのモデルを更に分解して論理記号し、それを論理演算によって解こうとする。

でも、人間が箱を開けたりするのに、そんな論理演算を行ってる訳ないですよね。

それじゃ普通、人はどうやってそんな問題を解こうとするかと言えば、イメージで解くんじゃないかと思うんですね。

脳内のバーチャル空間にその箱を思い浮かべて、自分の経験則に基づいて、その箱のどこを押したり、引いたり、引っ掛けたりすれば箱が開くのかをシミュレートしてから、実際に行動を起こすと思うんですね。

つまり、人間は頭の中に物理シミュレーション空間を持っていて、その中で意識的にしろ無意識的にしろシミュレーションを行う事が「思考」なんだと思うんです。

実際、人間が観ている風景のほとんどは網膜には映っていないという話があります。人間の目が光学的に見ている範囲というのは非常に狭いしかなくて、実際に人が「観ている」と認識している空間の殆どは脳内で再現された映像に過ぎないという事ですね。

その一例がこのページの錯覚。

http://web.mit.edu/persci/people/adelson/checkershadow_illusion.html

「升目Aと升目Bは同じ明るさ」です。さて、どれだけの人がこの事実を受け入れる事が出来るでしょうね。私もこの錯覚には腰を抜かす程の衝撃を受けました。

つまり、人間が観ている景色なんてのも、その人の脳の認識や思い込みで変わってしまうって事なんですね。実はこれって「幽霊が見える人」と深い関係があるような気がするんですが、今回の話題とは関係ないので飛ばします。

どっかで聞いた話なんですが、最近の研究では人間が意識して観ている景色と幻覚の間にはそれ程違いは無いなんて事を聞いたのだけれど、個人的には納得ですね。

人間の意識ってのは、実は脳内のシミュレーション環境の中に存在しているものなんじゃ無いかって話ですね。

そこで夢の話に戻るんですが、前日の「捨てる事について」というエントリーとも絡むんですが、人間の頭の中には意識、無意識に関わらず、いろんな思考や思念が並列に存在していると仮定します。

日常、起きている時間は意識が脳内シミュレーション環境を使っているけれども、夜、寝ている時は意識の活動が低くなって、無意識の思考や思念が活動を始めるんじゃないかと思うんですね。

そんな無意識の思考や思念が脳内シミュレータを使ってる最中に観るのが「夢」なんじゃないかと思うんですね。

そのシミュレーション結果によって、不要な思考や思念は忘却され、必要と思われた物が記憶に残る。

例えて言えば、昼間は人間がPCを操っていて、PCが何をしているかは人間が知っているけれども、夜になってバックグランド処理が動きだして、HDDのデフラグやウィルスチェックが実行されるようなもんですかね。

これも私の妄想なんですが、人間が日頃「意識」や「自我」なんて呼んでいるものは脳のシステムの中では単なる記憶の連続性を保障する為のサブシステムみたいなもんじゃないかと思っているんですが、この話も時間があれば書いてみたいですね。

もし、この脳内シミュレーション環境を外部から刺激する事が出来たら、それこそ本当にMatrixの世界が現実となる筈なんですけどね。Boom Townでも良いですけど。パプリカでもいいか。

そんな夢の機械は何時になった登場するんでしょうね。登場したらしたで恐ろしい気もしますけど。